2020年10月
29日
介護生活を始めて大きく変わったことがある。
その一つが家の見方。
どんなに素敵な家であれ、玄関から外にかけて段差の多い家は全てダメ。
我が家は幸い昔の家なので段差があるにはあるものの、何とか室内で親父を車椅子に乗せたらそのまま外に出ることができる。
よって、雨降りでもなければ俺の運動も兼ねて毎日一時間ほど親父の車椅子を押して散歩している。
ところがどうだ、最近の家は玄関から外までの段差がやたらと高く、また多い。
車椅子に乗せたままではとても外へ出られないような家も少なくない。
あれでは少なくとも終の住処とはいくまい。
バリアフリーという言葉自体は既に定着して久しいが、現実となるとなかなかそうもいかないようだ。
というよりも、若い夫婦が家を建てる時にそこまで思考が回らないのかもしれない。
まあ、それはそれで思考が健康的ということか。
1階は駐車場で玄関までは数段の階段、2階がリビングとキッチンで3階が寝室。
近所ではこんな家がとても多いが、もし我が家がこのタイプであれば介護のために引っ越しする必要があっただろう。
外へのバリアフリーという観点ではマンションの方が遙かに優れている。
いずれ一人になれば俺はどういう家、どういう場所に住みたいと思うだろうか。
今の家に住み続けるのか、東京へ越すのか、田舎へ越すのか、wifi環境さえあれば世界中どこでも仕事ができるのでいっそ海外という選択肢もある。
時々あれこれ考えてもみるが、それがいつになるかもわからず、結局途中で、
「まあ、そのときの気分次第で...」
というところに落ち着く。
22日
自室で読書をしていると、
「パ、パ、パ、パ、パ、ピ、ピ、ピ、プ、プ...」
という親父の大きな奇声が階下から聞こえてきた。
慌てて部屋に飛んで行くと、特に俺の様子に驚くこともなく冷静な顔で、
「ピ、プ、パ、プ、プ、ピ...」
とやっている。
「ん?」
と問えば、
「いまテレビで誤嚥性肺炎予防の舌の運度やってるんや」
とのこと。
昨日の我が家の平凡で幸せな一幕。
15日
親父が食べたいというので久しぶりにおでんを作った。
俺が必ず入れるちょっとかわったおでんダネがトウモロコシ。
といっても、生トウモロコシを4分割の輪切りにして放り込むだけ。
定番ダネの合間に食えば口直しになるし、何より気に入っている点は鍋の中が華やかになること。
やたらと茶色の具材が多い中にあって黄色が鮮やかに映える。
生トウモロコシがなければパックでも事足りる。
おでんといえば我が家は相撲部屋で使ってそうな大鍋で大量に作るので必ず余る。
よって、二日目も再びおでんを食べ、三日目は和風おでんカレーにするのが定番のコンボになっている。
余ったおでんダネはぶつ切りにし、だしの効いたカレーは蕎麦屋のそれに近い。
豚コマを追加投入して脂をよく溶かし、つゆに馴染ませるのが俺の隠し味。
まるで牛すじカレーのようなコクが出て更に美味しくなる。
これに余った煮玉子をトッピングすれば完璧だ。
8日
介護生活ではいろいろな制限があるが、その反面、自由に楽しめることもある。
その一つが大相撲中継だ。
秋場所の初日から千秋楽まで、幕内の全ての取り組みをがっつりとテレビの前で見ることができた。
働いていれば決してできないことだ。
後半になれば外が徐々に暗くなってくるので日本酒でもちびちびやりながら鑑賞したいところではあるが、その後にインシュリン打ちやオムツ換えをしなければならず、そこはぐっと我慢し、やることをやってから存分に晩酌を楽しんでいる。
俺が特にストレスを感じることなく介護ができている理由の一つに、日々の晩酌がある。
俺は忙しく晩飯を食べるようなことは絶対にしない。
そうした毎晩の晩酌時間が自然とストレス発散になっているのだろう。
ここ最近の酒の肴ブームはじゃこ天。
本場宇和島産の上物が近所のスーパーで売っているので、小判型を六つにカットして日本酒に合わせている。
添える大根おろしは必須だ。
なければ食べない。
大根おろしがどうしても余るので、なめたけおろしで一杯、焼き厚揚げに乗せて一杯、塩鯖に添えて一杯...。
先々、いかなる困難が待ち受けていようが日々の晩酌がある限り俺は無敵だ。
1日
今年の夏は今までの人生において最も多くブドウを食べた。
梨もよく食べたな。
今しばらくは店頭に並ぶだろうから、更に食べるだろう。
その財源は国から支給された二人分の20万円だ。
だからこんなに食べることができた。
我が家はそこまで貧乏ではないけれど、自分で働いて稼いだ金となるとどうも贅沢品を買おうとは思わない。
これは俺の性格ゆえか、それとも庶民ならば通常の感覚か。
金額だけ見れば決して高価とは言えないが、それでも一房1,000円のブドウや一個400円もするような梨は俺にとって完全に贅沢品であり、働いた金ではおいそれと買う気がしない。
次はこの財源でサンマを買おうと思う。
どれだけ高くともサンマを食わずして秋を迎えるなど日本人としてあり得ない。