買い物かご
母が逝ってからというもの、仕事帰りにスーパーに立ち寄る機会がめっきり増えた。
料理を作るのは好きなのでむしろそれは楽しみであると言えるのだが、俺が立ち寄る時間はどうやら一日の内で最も混む時間帯のようで、レジ待ちの長蛇の列には辟易させられた。
やがて、並ぶ際には客のカゴを見て全体的に中身の少ない列に並んだり、あるいは、「こちらにもどうぞ」という一言を期待して空きレジの横の列に並んだり、とにかく、男が覚えなくてもいいようなちょっとしたコツなど身に付き初めて自信情けなくなることしきりだった。
しかし、俺にはどんな状況下においてもそこに楽しみを見い出すことができるという長所がある。
(やがて、あるいは、とにかく、しかし....こういうのを文章下手というのだろう)
それが困難であればある程、その長所は冴える。
言ってしまえば、一般人ならばもうダメだと膝をがっくり落とすような最悪の状況において、それを鼻歌まじりに切り抜ける自分自身に酔う傾向がある。
レジ待ちの辟易さなど私には困難レベル1にもならない程で、乗り切るのは早かった。
それはこうだ。
俺の買い物時間の客は大別すれば二つに別れる。
一方は惣菜系、もう一方は材料系と勝手に名付けた。
前者は出来合いの総菜で夕食を済まそうとする人々、後者は野菜や肉などの材料を買って一から料理する人々。
俺はレジに並んだ際、視界に入る女性、特に若い女性客のカゴの中身と外見を事細かに観察する。
そんなことを3,4ヶ月も続けていると傾向というものがだんだんとわかるようになり、更にはデータといえるようなものが蓄積されてくる。
今ではかなりの高確率で、その外見を見ただけで惣菜系か材料系かが当てられるようになった。
こうなると面白いもので、街や電車で女性を見ても、そういうデータを元に女性を見てしまったりする。
ファッションもばっちり決まった材料系の美女を見たときは、
「君はさぞかし素敵な男性を捕まえることができるだろう」
などと、当人の全く預かり知らぬところで勝手に一本取られたりしている。
(最も、上記の女性はごく稀にしかいないが)
そんなデータにプラスして、俺にはM女性そのもののデータというものがある。
その両方のデータを元にレジに並ぶ女性を観察すれば、本人に訊ねるわけにもいかないので答えは闇の中だが、かなりの高確率でM女性を捜し当てる自信がある。
「M女性と出会いたいのですが」というメールをもらった際には、「ネットを大いに活用すればいいでしょう」と答えるのが常だが、努力次第、あるいは好奇心次第では、日常生活においても、多数の女性の中からM女性を選別する能力を身に付けることができる。
話を買い物かごに戻す。
もしそれを買い物かごの中に見つけたなら、「ああ、間違ってもこういう女性だけは妻にめとるまい」と思う一品がある。
何かわかるだろうか?
ちょっと考えてみて欲しい。
答えはカット済みの刻みネギだ。
俺はこれを買う女性の神経が知れない。
普通のネギを買って帰って家で刻めば、何もあんな高いものをわざわ買わなくても済むではないか?
ネギを刻む程度のことは俺でもする。
面倒臭いか、あるいは、包丁がないのか何なのか、とにかく、あれをためらい無しに買うようになれば少なくとも家事の面においては赤点を付けられても仕方あるまい。
書くまでもないが、刻みネギの女性は俺のデータ的に100%総菜系に属する。
いろいろなストレスもあるだろう、仕事や家事疲れもあるだろう、時に惣菜や冷凍物も仕方がない。
しかし、女性には刻みネギだけは買って欲しくないと切に思う。
では反対に、評価が上がる一品も俺にはある。
さて、何か?
暇な人はちょっと考えてほしい。
答えはラードだ。
ここであれこれ俺の食のこだわりを述べても仕方がないので理由は割愛するが、とにかく、これが入っていれば一目置く。
男性はあまり知らないかもしれないが、肉屋でもスーパーでもラードは頼めば無料で分けてくれる。
決して無料だからといって評価が高いわけではない。
彼女たちは、同じく無料だからとビニールを何枚も持って帰る女性たちとは人種が違う。
M女と出会えないとお嘆きの男性諸氏へ。
例えば上記の如く、少しばかり嗅覚を磨けばまわりにM女性がいないと俺にメールを送る必要などないだろう。
貴男の日常のそこかしこで確実にM女性は存在する。
特にスーパーや書店はその特性を顕著に露呈する場所でもある。
後は当たって砕けろの精神あるのみ。
努力及び健闘を祈る。
shadow
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