M女医からのアドバイス

ここでは大きく分類して、

①神経麻痺

②窒息

③感染症

④浣腸

について、補足として述べさせて頂きます。


神経麻痺

橈骨神経麻痺、尺骨神経麻痺に代表される末梢神経損傷は保存的な治療で回復するケースも存在しますが、「もしや神経麻痺かも?」と感じられた際は一度整形外科を受診されることをお勧め致します。

実際に診察してみなくては判明しない障害が潜んでいる可能性や、仮に重篤であった場合、放置すると関節の拘縮等恐ろしい合併症を引き起こす可能性も御座います。

手術や薬物に限らず、リハビリや理学療法等侵襲の少ない治療法も数多く御座います。

常に麻痺がある状態だと日常生活に不便を強いられるように、手足の運動や感覚が障害されるとQOLも大きく損なわれます。

早めに整形外科医の診察を受けることで、その後の生活における影響も最小限に留めることが出来ると存じます。


窒息

首絞め、猿轡、マスク、またイラマチオや顔面騎乗等々、責めにおいて「窒息」という要素は多彩に絡んでくることでしょう。

快楽と危険が背中合わせの窒息ですが、当然ながら生命に危険を及ぼす可能性も御座います。

窒息によって肺でのガス交換が十分に行われず、動脈血中の酸素が不足した状態が持続すると、低酸素血症とよばれる状態となります。

チアノーゼや手足の冷感、頻脈に始まり、意識障害や視力障害などの重篤な症状を呈し、更に低酸素血症が遷延した場合、低酸素脳症という不可逆な脳障害をきたす可能性も御座います。

特に、ビザールでよく用いられるようなラバーのマスクを用いる際は、表情の変化を観察するということが難しくなることが想像されますので、取り返しのつかない事態を招かぬ為にも、事前にギブアップのサインを決めておく、緊急時に対応できるように傍らに鋏を置いておく、等の対処が必須かと存じます。

独立した項目を設けず、ここでイラマチオについて更に補足させて頂きます。

このプレイは、過剰に行うと顎関節の脱臼を引き起こすことが考えられます。

また、顎関節症の誘因にもなり得ます。

顎関節症を一度引き起こしてしまうと、多くの場合は緩やかに緩解ないしは消失しますが、ごく少数で重症化してしまうケースも御座います。

顎関節症は身近な疾患のようで、重症例では日常生活もままならなくなってしまう恐ろしさも秘めております。

是非、頭の片隅にでも留め置いてくださいませ。


感染症

性感染症(STI)についてはshadow様のサイト内において既に詳細にふれて頂いておりますので、ここではスカトロプレイやアナルセックス等、また異物挿入における感染症について補足させて頂きます。

皆様御存じの通り、腸内は細菌の巣窟です。

腸内細菌叢の名の通り、ビフィズス菌や乳酸桿菌に代表される所謂「善玉菌」や、クロストリジウム属や大腸菌に代表される「悪玉菌」、そしてその他の微生物(酵母等)が均衡を保って腸内で生活しています。

従って、そこに触れるような行為は全て、これらの微生物による感染症の原因となり得ます。

細菌の塊である糞便、又その通り道であるアナルに直接口をつけるような行為のみならず、アナルを触った手、或いはアナルに挿入した後のペニスを直接膣に挿入するようなことがあれば、半閉鎖空間である膣では容易に膣炎になり得ますし、また隣接した尿道から逆行性に尿路感染症を引き起こす可能性もあります。

アナルに関するプレイはポピュラーなものですが、その都度細心の注意を払われることをお勧め致します。

SMの一環として、またその他のプレイでもプラグ等の異物挿入は多く見受けられますが、管理を怠るとこちらも十分危険を孕んだ行為で御座います。

人体にとって、明らかな「異物」であるものを長時間体内に留置することは、どうしても自覚しきれない細かな組織の損傷を伴うことが考えられます。

小さな傷で微生物が繁殖し、気づかないうちに感染症の温床になっていることもあり得ますし、そもそも異物自体がその微生物の棲家になる可能性も大いにあります。

異物を挿入してお過ごしになる場合は、使用前・使用後の器具の洗浄・消毒は勿論のこと、何か異常を感じる場合は無理をして挿入を続けない、日頃から挿入部の様子を観察しておく、等の注意深い対処が必要であると存じます。


浣腸

SMプレイにおける危険というものについて考えると、

・負荷が大きいが故の危険(吊し等)

・人体にとって不自然な行為であるが故の危険

に大別されるのではないか、と思われます。

そもそもの負荷が大きな行為というものは誰が見ても「危険」であり、その行為に及ぶ際は細心の注意を払われることと思います。

その一方で、一見それほどダメージが大きくないように見えても、実は責めを受ける側には大きな負担がかかる行為も存在致します。

それは、「人体の本来の機能にそぐわない行為」です。

このように書いてしまうととてもわかり辛く感じますが、要は、その行為は自然界で起こり得ることだろうか?」ということなのです。

一般の方がSMと聞いて真っ先に思いつくような、鞭打ちや蝋燭、といった行為も確かに自然界には存在しないでしょう。

けれども、それに類似した打撃や熱、といったダメージを受ける機会は必ず存在します。

裏を返せば、人間を含めた動物の肉体は、それらのダメージにある程度対応し得るだけの機能を備えているということです。

ある程度の強靭さが無ければ、些細な外傷ですぐに命を落としてしまうからです。

(勿論、度を超せば大きな危険となり得ますが…。)

では、ここでいう「自然界で起こり得ない行為」とは何か。

それは、端的に申し上げると「排泄の為の部位に何かを入れる」ということです。

SMプレイにおいてメジャーな浣腸やアナルセックス、また尿道拡張等がこれにあたることと存じます。

ここでは特に、浣腸を行う際の注意点について述べさせて頂きます。

浣腸はSM小説やAVなどでも頻繁に登場する行為ですが、その分現実と虚構とが綯交ぜになって認識されている可能性もございます。

先程述べさせて頂いた通り、「肛門から何かを注入する」という行為は人体にとっては非常に不自然な行為です。

同じ消化管でも、食道は「外から物が入ってくる」部位であるが故に、物理的・化学的なダメージにある程度耐え得るような構造を持っています。

それに反して、肛門や腸粘膜、また腸管はその刺激に適応するような構造ではないのです。

それは細胞の配置、といったミクロのレベルからして異なっています。

浣腸を行う上で何が危険であるのかを、以下に列記させて頂きました。

①浣腸液の量

比較的安全なぬるま湯でも1.5~2Lまでが上限でしょう。

これ以上多くなると小腸への逆流を来して炎症を引き起こしたり、腎臓での利尿速度を超えて水分を摂取することによる水中毒(※)を引き起こす可能性が御座います。

また、注入時の圧力によっては腸管穿孔を来すことも考えられ、その結果腹膜炎を引き起こす可能性も御座います。

※水中毒…過剰の水分摂取によって体内の水が他の溶質(特にナトリウム)に比べて著しく増加し、強度の低ナトリウム血症を来した状態です。

頭痛や嘔吐、倦怠感などで始まり、重篤な場合は致死的になり得ます。

②浣腸液の内容

ぬるま湯が最もリスクが少ないと考えられますが、先述の通り量にはご注意くださいませ。

グリセリン浣腸もよく見受けられますが、仮に腸粘膜に傷があった場合、そこからグリセリンが血液中に流入し、溶血や腎不全を起こす可能性が御座います。

牛乳浣腸もメジャーな存在ですが、あまり安全とは言えないかと存じます。

牛乳は腸内で消化も吸収も出来ないため、腸内に残留した場合は腐敗します。

したがって、牛乳を用いた際は入念な洗浄が必要になるでしょう。

同じ食品でも、コーヒーや炭酸飲料、また酢や高濃度の液体等を用いると粘膜を損傷する危険が御座います。

また、アルコールを用いた浣腸は大変危険です。

坐薬と同様に、粘膜から直接アルコールを摂取することで、経口摂取よりも遙かに速く吸収され、少量であっても急性アルコール中毒を引き起こす可能性がある為です。

また、浣腸液の温度にも注意が必要です。

概ね38℃前後が適温ですが、40℃以上では腸壁の細胞が壊死するなどの大きなダメージを生じ得ますし、低温では腹痛や下痢をの原因となります。

③体位

SMプレイにおける浣腸は殆どが四つん這いの状態かと思われますが、仮に立った状態で浣腸を行う場合は、器具の先端で腸管を傷つけ、腸管穿孔を引き起こす可能性が御座います。

④時間

浣腸を行った後に長時間排泄を我慢させていると、使用薬剤によっては様々な健康被害を生じ得ます。

腸管の内圧が急激に高くなった場合も、排泄が出来ない状態だと腸管に大きなダメージを与え、時には死に至るケースも御座います。

使用薬剤によっても変化致しますが、我慢させる時間の目安としては5~10分、急な状態の変化にも対応できるように十分注意を払われることをお勧め致します。

⑤頻度

浣腸を極度に頻回に行うと、直腸の粘膜が過敏になって一日に何度も便意を催したり、逆に正常な排便反射が損なわれて浣腸なしでは排泄が出来なくなること、また粘膜にダメージを与えることで腸管が萎縮し、便秘の原因となることも御座います。

浣腸は身近なプレイであるようで、実は様々な危険の潜む行為です。

その危険の中には致死的なものも多く含まれること、また一見安全そうでも実は大きな害を及ぼしている可能性があることをご理解頂けましたら幸いです。


総括

以上、長々と綴らせて頂きましたが、こちらにお越しの皆様は既にこの程度のことはご存じであることでしょう。

SMプレイは危険と隣り合わせであるが故に感じる快感、という側面もありますし、「安全」に気を取られ過ぎて神経質になり過ぎてしまうと味気なくなってしまいますね。

けれども、SMプレイの持つ危険性を頭の片隅に置くだけでも、ちょっとした変化を見逃さず、大事に至らせずに済むことに大いに貢献することでしょう。

大切なことは、危険を恐れすぎることではなく変化を見逃さないことです。

何か少しでも違和感がある、いつもと違う。

そう感じましたら、是非一度病院にかかることをお勧め致します。


ここで、最後に一点だけ。

診察室では、思い当たる原因を恥ずかしがらずにお伝え下さい。

医師としても、原因が分からずに右往左往するより遙かに有難く思うことでしょう。

始めは驚きこそすれ、誠実な医師であれば適切な治療を行う筈です。

正直に伝えて態度が変わる様な医師は信用しなくて結構です。

我々は確かに特殊な性癖であるかもしれませんが、何も恥ずべきことはしていないのですから。


最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

皆様がSMを謳歌なされる中で、ほんの僅かでもお力添えが出来ましたら幸いです。


M女医

shadow追記

他にもこのような危険があるのでは?

SMプレイに関する医学的な質問があるのですが?

等々、shadowまでメールをどうぞ。

M女医へ転送します。

頂戴したメールに関しては当コーナーにて公開する場合があるのでご了承を。


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