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M女性のちょっとした仕種の中に意地らしさや従順さ、そして匂い発つような色香を見ることがしばしばある。

先日、綾という素敵なM女性とデートする機会を得た。

当日のプランは道中の思い付きに任せることにし、夜にどこの店で食事するのかも全く決めないままに落ち合った。

夕暮れ時、胃袋は中華を欲したが、

一緒に過ごすうちに彼女とは静かな和風の店でしっとり飲みたいと思い始めてもいた。

毎回毎回、食事に気を使っているわけではないけれど、

素敵なM女性にはフランス料理やイタリアンよりも和食が圧倒的によく似合う。

舌ビラメのムニエルよりも筑前煮。

パスタよりも蕎麦。

そしてワインより日本酒。

西洋指向が専らの女王様とは対照的に、わびさびの魅力がM女性にはぴったりくる。

最も、M女性のガーターベルトやハイヒール、そしてボンテージファッションも非常に魅力的であり、

和洋両方似合うのが素晴らしい。

そんな私の趣向もあり、彼女を招待したのは梅田の某所にある広過ぎず狭過ぎずの、

竹の装飾が施された静かな和風の居酒屋だ。


話が逸れるが少し書いておくと、私たち関西人は大阪駅近辺のことを梅田、あるいはキタと呼ぶ。

根っからの関西人は、「今日は大阪に遊びに行く」などとは決して言わない。

これに対して難波、道頓堀、心斎橋一円をひとからげにミナミと呼ぶ。

同様にして神戸や京都に出かける時も、それぞれ「三ノ宮に行く」「河原町に行く」と言う場合が多い。

関西人に「今日は京都へ遊びに行った」と言うと、「デートで清水にでも行ったんか?」などと返ってくるだろう。

京都と言うと、それだけ神社仏閣などへ観光しに行ったというニュアンスが強くなる。


で、梅田にあるその店は年期の入った寿司屋同様、

入り口の厳粛さには財布の中身を改めて確認せずにはいられない雰囲気があるが、

品書きをよく見れば値段も手頃でたまに利用させてもらっている。

店内には間違っても一揆飲みで騒ぐような学生もいなければ、やたらと声のでかい酔っ払いもいない。

カウンターが良かったのだがあいにくとふさがっており、テーブルに着かされた。

メニューを眺めつつちらりと彼女を盗み見ると、その物腰や仕種が店によく馴染んでいる。

彼女に限らず、総じてM女性にはそういう雰囲気がある。

私はそれが好きでたまらない。

日本酒は男となら真冬でも冷酒しか飲まないが、こういう場合は熱燗しか頼まない。

期待通り、彼女は酒が運ばれてくると私が何も言わずとも両手でかいがいしく酌をしてくれた。

その態度は最後まで変わりなく、私が一献差す度にまるで付き人のように杯を満たしてくれる。

何もご主人様冥利を感じるのはプレイの時だけではない。

酌をされながら、甘美な幸せを感じた。

このようにして飲む酒の味が不味かろうわけがないから、銘柄などは何処でもいい。

彼女の杯が空くと、私も片手で酌を返した。

世のS諸氏の中には、そういうことを一切しない人も結構いるが、そこまで偉そうにしようとは別段思わない。

酌をする度に、お礼の意味だろう、彼女は小さく顎を下げた。

料理が出ると、食べやすいように小皿に取ってくれる。

私はただ、取り分けられた料理を殿様のように食えばいい。

そんな仕種を見ていると、口にこそ出さないが、「この女性が望むことなら何でも叶えてやりたい」と心底思った。

この世の中でM女性の内面ほど美しいものはない、と私は思う。

調教を施したり、あるいはこうして一献差し向かいつつ、

普段は内深く秘められたM女性特有の美しさが眼に見える形で表に現れたとき、

私はその情景美に圧倒されるばかりだ。

いちいち褒めはしない。

だから、それほどまでに美しく輝いているなど、当の本人も気付いていまい。

あるいは、その美しさを理解できるのはSだけなのかもしれないが。

私の瞳の変化を認めては、「どうかしましたか?」とでも言いたげに可愛く首を傾げる。

酌をしてもらうときの両肘のたたみ具合や艶めかしい手首の曲がりを見ていると、

アルコールで活発になった血が更に騒ぎ始めた。

M女性の美に対しては鞭打つような態度で答える。

それが私の宿命だ。

それを芸術などと偉そうには言わないけれど、M女性特有の美に醜態が加味されて作品は完成する。

そして、ついに我慢できなくなって命令を下した。

命令と書けば聞こえはいいが、裏を返せば願望でもある。

それを打ち震えながらも懸命に受け入れようとするM女性の何と魅力的なこと。

彼女は酌をするだけの冷静さを失い、私は手酌で杯を重ねた。

羞恥に歪んだ彼女の瞳に、「悪いのは俺じゃない、綾がそうさせるんだ」と目で呟く。

もう料理など要らない。

彼女の表情こそが肴だ。

余人には理解できない大人の時間がゆっくりと過ぎた。

命令は徐々にエスカレートしたが、彼女はその全てをこなし、私は深く満たされた。

特に話が盛り上がったわけではない。

しかし、私たちにはSMという共通言語がある。

だから、語らずとも目で話すこともできれば、犯し、犯されることもできる。

そんなこと私にもできるのかしら?

できるよ。

店を出る頃には、とてもその日に会ったばかりとは思えないほどに私たちの心の繋がりは深いものになっていた。

M女性の内的魅力をしみじみと楽しむには冬こそいい季節だ。

何もそれは日本酒を酌み交わすだけではない。

こたつの中で、誰もいない海辺、そしてしなびた温泉宿で....楽しみは尽きない。

皆さんに素晴らしい冬が訪れますように。


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